令和6年度千葉大学大学院入学式 学長告辞(和訳)

千葉大学大学院に入学された修士課程、博士課程、専門職学位課程の皆さん、入学おめでとうございます。ご家族や関係者の皆さまにも、心からお祝いを申し上げます。

皆さんは、「研究を新たに始めたい、さらに深めたい」「高度な技術を身に付けたい」という気持ちから、今回入学を決意されたものと思います。そうした向学心や探求心にあふれる皆さんをお迎えできることを大変嬉しく、誇りに思います。

私は、その夢の実現を精一杯応援したいと思っています。

研究の種は、研究者の数だけ存在します。当たり前だと思い込んでいる事実の奥に、知らないことがたくさん隠れていると思います。皆さんには、これからご自身の関心領域の研究や習得したい学問を存分に究めていただきたいと思います。

例えば、すでに記憶が薄れつつありますが、世界を席巻した法老王宫殿娱乐场感染症(COVID-19)のパンデミックが始まったのは2020年、今から4年前のことです。それまで、感染症というとマラリアや結核など、地球規模で考えれば重要な疾患ですが、抗生物質をはじめとする治療薬の進歩や衛生環境の改善により、先進諸国においては「感染症は過去の病気だ」と考えられていたように思います。

ところが、COVID-19の出現により、その考えが一気に吹き飛ばされたことは言うまでもありません。今回のパンデミックは、20世紀の初めに流行したスペイン風邪としばしば対比されます。その正体は インフルエンザウイルスと言われますが、1918年から20年まで世界的に蔓延したと記録されています。すなわち、パンデミックの期間は、COVID-19と大差なく、ともすれば「過去100年の間、人類には何の進歩もなかったのだろうか?」と考えてしまいそうです。

しかし、航空機など世界的交通網の発達に伴う人の移動は100年前と比較にならないほど増えています。本来ならCOVID-19は、より多くの被害をもたらし、遥かに長い期間流行しても不思議ではなかったことでしょう。感染拡大が「この程度」で収まることができた背景には、mRNAワクチンの登場という科学的イノベーションがあったからです。これが、昨年のノーベル医学生理学賞受賞にもつながりました。

ところが、カリコ博士とワイスマン博士によるこの研究も、「当初は周りから見向きもされなかった」とご本人達が述懐されています。流行り廃りにとらわれず、自身の興味のままに、独自性の高い研究を追求した結果が、時機を得て人類を救ったともいえるでしょう。

本日、大学院生となった皆さんは、学生であるとともに、大学の研究の一翼を担う若手研究者です。その皆さんが研究に専念できるよう、私は千葉大学を、「誰もが自分らしさを追求でき、人を豊かにする魅力溢れる大学」にしていきたいと思っています。

そのために、経済的支援や学修環境の整備に力を入れています。例えば、魅力的な取り組みを多数有する卓越大学院プログラムや、SPRINGという次世代研究者の挑戦的研究プログラムなどが動いており、毎年200名以上の大学院生が多様な経済的支援を受けています。

皆さんも奮ってご活用ください。千葉大学は、全力で若手研究者を支援していきます。

さて、千葉大学は、今年創立75周年を迎えました。今年度誕生した「情報?データサイエンス学部および大学院情報?データサイエンス学府」を含め、11の学部、19の大学院、30を超えるセンターなどを擁しています。皆さんには、ご自身の専門性をとことん追求していただくとともに、総合大学の強みを生かして、学部を超えた学際的な交流を通じて視野を拡げ、皆さんの人生を豊かにしていただければと願います。

最後に、一つの言葉をお贈りしたいと思います。
それは、今から30年以上前、私がはじめて大学院を修了したスウェーデンのウプサラ大学で出会った言葉です。

ウプサラ大学は設立が1477年と、550年近い歴史があり、さぞかし伝統を重んじる堅苦しい校風かと思いきや、そこでは皆が自由な発想でのびのびと研究に取り組み、文字通り学問を謳歌する雰囲気に満ちていました。ノーベル賞の受賞も多く、毎年受賞者による講演会が行われます。その大講堂の壁に、スウェーデン語で刻まれている大学憲章が、「自由に考えることはすばらしい。しかし、正しく考えることはもっとすばらしい。」という文章でした。

皆さん、「正しく考える」とはなんだと思いますか?
自由よりも窮屈な印象ですが、この「正しく考える」という言葉の中に、私は「事実の奥に真理を見出す」探求の姿勢を感じました。

何ものにもとらわれることなく、自由に、けれど自らに問いを繰り返し、深め、正しく物ごとを考えていく、それはまさに、千葉大学の理念「つねに、より高きものをめざして」に通じるものであり、これから新しい未来を切り拓いていく皆さんに贈る言葉とさせていただきます。

私自身も、改めて、この言葉の意味を再確認することができました。いくつになっても学び続けることに終わりはなく、この言葉をしっかりと胸に刻み、実践していきたいと思います。

皆さんのご活躍を心より祈念し、私の告辞といたします。

令和6年10月1日

千葉大学長 横手幸太郎