第10回移民難民スタディーズ公開研究会 報告
外国にルーツを持つ人たちの教育と就労について
2021年6月27日(日)13:00~16:00
オンラインZoom
司会:小林聡子(千葉大学国際教養学部)
報告
第10回研究会は「外国にルーツを持つ人たちの教育と就労」をテーマに、神奈川県内で外国にルーツを持つ子ども?若者支援および外国人の就労支援に取り組んできた高橋清樹氏(認定NPO法人多文化共生教育ネットワークかながわ(ME-net)事務局長)、福山満子氏(横浜市福祉事業経営者会 事務次長)のお二人をゲストにお招きし、それぞれの活動や支援における課題についてお話を伺った。研究会はオンラインの公開研究会の形式を取り、千葉県内外から100名を超える参加があった。
1 外国につながる子どもや若者の社会的自立を支援する仕組みや制度の在り方
高橋清樹(認定NPO法人多文化共生教育ネットワークかながわ(ME-net)事務局長、神奈川県央地域若者サポートステーション 総括コーディネーター)
高橋氏は、神奈川県立高校や養護学校の教員として38年間勤務され、教育現場や地域のNPO団体のメンバーとして外国につながる子ども若者の教育支援に関わってきた。近年、様々な事情により、日本で生活する外国につながる子どもや若者が増加する中で、不就学の問題など教育保障面での不整備が明るみになりつつある。また、福祉の面でも家族単位で制度からこぼれて、生活困窮に陥っている状況が多数見受けられるようになった。こうした状況下で、子どもや若者を支援するには制度面での改善のほか、行政とNPOや支援者が連携した、ライフコースに沿った寄り添い型のソーシャルワーク的な支援の必要性が高まっている。高橋氏が事務局長を務めるME-netでは「居場所?学習支援」「高校連携」「相談事業」「ネットワーキング」を事業の柱とし、外国にルーツを持つ子どもたちおよび多文化家庭への支援活動を行っている。当日は、Me-netが行政との連携のもとに行う「高校生向け進路相談会」や「多文化子ども若者支援センター」での相談事例が報告された。Me-netの活動で特筆すべきは、外国にルーツを持つ子どもたちをめぐる複合化した諸課題に対し、行政(教育委員会等)と民間が連携した支援を行い、両者の情報共有が密になされていることである。
外国につながる子ども?若者の自立をめぐっては学齢期?高校?大学?専門学校?社会人へと進む過程で「基礎学力定着の壁」「高校進学の壁」「高校での学習定着の壁」「社会参加自立の壁」とライフコースの移行時に障壁が立ちあらわれると高橋氏は説明する。若者たちはこれら4つの壁を乗り越えてやっと社会へとたどり着くが、自力では難しい場合も多く各段階でのセイフティーネットの整備が急がれる。近年、Me-netの支援活動は、高等学校から大学?専門学校への進学支援、その後の就労支援へと広がりを見せている。就労支援においては、教育の場での「キャリア教育」が課題となっている。今後は高校、専門学校、大学との連携だけでなく、離職後の支援体制(ハローワークやサポートステーション)の構築や外国人労働者を受け入れる企業側への働きかけ、ロールモデルの排出と循環型の人材育成が急がれる。
2 神奈川県内の外国人就労支援
福山満子(横浜市福祉事業経営者会 事務次長)
中国遼寧省生まれの福山氏は、14歳で中国残留孤児だった母とともに来日した。日本の中学校に編入後、職業訓練学校を経て美容師になる。出産のため仕事を辞めるが、子どもが幼稚園に入ったのを契機にパート、そしてフルタイムの仕事に就くに至った。その間、小学校のPTA活動や地域の民生委員、主任児童委員などの仕事を兼務し、地域で暮らす外国人を支援するボランティアとしても活躍し、現在は横浜市の公益社団法人にて、福祉施設で働く外国人の研修や就労支援にコーディネーターとして携わっている。当日の報告では、福山氏が来日後、生活者として、母親として培った経験が、現在の横浜市福祉事業経営者会での活動へとつながっていくプロセスが当時の写真とともに仔細に報告され、日本社会と外国人の視点の両方から外国人が日本で就労するための課題が提起された。
福山氏が事務次長を務める横浜市福祉事業経営者会では、介護施設で働く意思のある人材を就労につなげ、介護業種に特化した「職業紹介」「研修」の事業を公益目的事業として実施している。『外国籍県民等対象介護職員初任者研修』および『介護現場で役立つ日本語講座』の受講、修了後の就労までを支援し、就職定着支援も実施している。さらに、国内だけではなく海外からも積極的に受けており、留学生?技能実習生?特定技能?インターン生等々人材確保育成も行なっている。
記録:相良好美